「まあ……無事にお帰りになられて、めでたいことですわ」

 お義母さまは扇を広げ、私と彼を交互に見ていた。義娘の私を見るにはいつも通りだったのかもしれないけれど、私の夫アーロン・キーブルグ侯爵を見るには、少々不躾だったようだ。

「ああ。こちらにお二人を招いたのは、聞きたいことがあってね」

 それまで友好的な態度だったアーロンの声が急に低くなったので、二人は驚いたようでビクッと身体を動かしていた。

 なんだか不思議な気分がした。だって、私はいつも……彼女たちにそうされる方だったもの。

「……何かしら?」

 お義母様は気を取り直して、アーロンに聞き返した。

「この家に、俺の愛人を騙る妊婦を送り込んだ者が居たようだ。金貨十枚を払って雇ったとか。貴族でもなかなか払えるような金額ではない。もしかしたら、お知り合いなのかもしれないと思ってね。何か知っていますか。エタンセル伯爵夫人」

「知る訳がないでしょう! なんという失礼な!」