私はお母様が死ななければって、ずっと思っていた。アーロンだってそうだ。アーロンは帰って来てくれた。これは、特殊な事情のある奇跡で、奇跡はそうそう起こらないから奇跡だった。

 ここ一年アーロンが死ななければって、私は思い続けていた。ずっと。

 アーロンさえ居てくれれば、こんなに苦しまなくてすんだのにって。

「……いや、今日誰かを殺したりしない。安心してくれ。だが、はっきりと言いたいことは言わせて貰う」

「旦那様。いらっしゃったようです」

 クウェンティンは使用人の一人から耳打ちを受けて、アーロンに伝えた。誰かを訪問するには早い時間に思えるけれど、私たちは思ったよりも話し込んでしまっていたのかもしれない。

 アーロンに視線で合図されて、私は頷いた。

「ええ。同席しますわ。私の義母と義妹ですもの」

 私も立ち上がり、準備をするために私室へと戻った。


◇◆◇


「お久しぶりです。義母上。それに、ハンナ嬢」

 アーロンは私を伴い客室に現れ、作法通り座っていた義母と義妹ハンナは立ち上がった。彼が着席を進め、私も隣に座った。