何年も何年も、義母は何かあれば私に当たり散らして来た。それに怯えていた時間があまりにも長すぎた。

「奥様。キーブルグ侯爵夫人になれば、エタンセル伯爵夫人は奥様に手が出せません。何故ならキーブルグ侯爵家での家長は旦那様なのです。奥様に手出ししようとするならば、旦那様が必ずお守りくださいます」

「……クウェンティン」

 この、クウェインティンは一年間、アーロンが居ない間も守ってくれていた……あのヒルデガードからも。

「何。エタンセル伯爵夫人に暗殺者を送られようが、クウェンティンが守ってくれるだろう。クウェンティンの方が強いからな」

「旦那様」

 楽しげにそう言ったアーロンを、窘めるようにしてクウェンティンは彼の名前を呼んだ。

 どういう事かしら? 彼は確かに普通ではない知識を豊富に持っている。水に落ちても沈まない方法……それに、奴隷商が心を折る方法も?

「……クウェンティンは、実は暗殺者として育てられたんだ。だが、それが本業になる前に俺がその組織を壊滅させたので、ただ強くて知識豊富な賢い子が残った。だから、俺が邸に連れて帰ったんだ」