「ブランシュ。そんな顔をするな。俺はキーブルグ侯爵で一国の将軍だぞ。エタンセル伯爵夫人が、元公爵家であろうがなんなんだ。俺には関係ない。不当な扱いをされたならば、遠慮なく意見させていただく」

 私がそれを止めようとしていることを察してか、アーロンは呆れたようにそう言った。

 アーロンは決してお義母様のような人ではない。けれど、どうしても怖いのだ。

 何か……私の大事な物をまた、壊されてしまうかもしれない。痛いことをされてしまうかもしれない。

 キーブルグ侯爵家に嫁入りして、もう一年以上経つというのに、そういう思いが抜けない。

「そうですよ。奥様。僕の見るところ、奥様はエタンセル伯爵夫人に深く|精神を支配(マインドコントロール)されているようですね。それは、どうしても自分には逆らえない逆らわないように、何度も何度も心を折る奴隷商がするような方法です。現に奥様はこうして、旦那様からの提案もどうにかして避けられないかと、考えていらっしゃるでしょう」

「……それはっ」

 ……それは彼の言うとおりだ。私は義母に抗議するなんて出来ない。だって、怖い。今だって、手が細かく震えている。