「ああ。ブランシュ。今日は、邸に居るよな?」

「ええ……居るつもりだけど」

 陽の当たるテラスに用意させた昼食を食べ終わった時にアーロンが確認したので、私は戸惑いながら頷いた。

 とは言っても、嫁いでから未亡人として過ごして居た間も、私はキーブルグ侯爵家からはあまり出ない。一日のほとんどの時間を邸で過ごすのだから、こんな確認を彼にされることが不思議だった。

「いや、君の義母と義妹を午後にここへ招いているのでな。別にブランシュ本人が居なければ居ないで良いのだが、君も後から聞けば驚くと思った」

「え? お義母様とハンナを、招いているですって……? アーロン。どういうことなの?」

 私が驚いて飲んでいたカップの置き場所の目算を誤りお茶を溢してしまったので、クウェンティンがさりげなく拭きに来た。

「奥様。あれは、奥様個人だけの問題ではございません。キーブルグ侯爵家で行われたれっきとした詐欺行為です」

「そうだ。俺がもし本当に死んでいたらどうする。あの状況であれば、ヒルデガードが家督を継ぐことになっていたのかもしれないが、俺の血を実際には持たない者がキーブルグ家の直系として育てられることになる。貴族の名を騙る事は罪だ。それは叶わなかったとしても、この家の乗っ取りを企んだんだ」

「……それは……っ」

 クウェンティンとアーロンにそうあるべきだと説明されても、私はどうしても気が進まなかった。これまでに義母は絶対に逆らえない存在だったし、勇気を出して逆らっても酷い事になってしまった。

 だから、もし……。