「……ああ。あの女を雇ったのは、エタンセル伯爵夫人だと? 本当に嫌な女だ。信じ難いな」

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、アーロンは大きくため息をついていた。

「ええ。おそらくは、そういう事でしょう。深夜に人目を避けてという話ですし、そうでなければ、あの邸にあの女が近づく理由はありません」

「未亡人となったブランシュの性格から、俺の子を宿していると主張する女を追い出す訳もなく、あの手紙を偽造したのも、エタンセル伯爵夫人であれば可能だろうな。我々は近い縁戚に当たるし、伯爵夫人から必要だと言われれば業者とて従うだろう」

 クウェンティンとアーロンは、義母があのサマンサを送りこんで来た事を前提に話していた。

 けれど……まだ、信じられない。サマンサは確かに妊婦だった。お義母様ならば、私が追い出さないと踏んで、妊婦を雇って送り込んで来る事だって出来るだろうけど。

 それをして、キーブルグ侯爵家を乗っ取ろうとしていた?

 ああ……どうして、そんなことをしようと思うの。

「それに、旦那様の弟君も居場所を突き止めました……どうなさいます?」