クウェンティンはアーロンに逆らうことも、特に気にしていなさそうだった。

「ごめんなさいっ……もうここへ到着して、かなり時間が経っていたのね」

 私とアーロンが話込んでいる間にキーブルグ侯爵邸に到着していて、そして私たちが話し込んでいる様子から、彼は声を掛ける事を躊躇っていたらしい。

 私たちが邸へと入ると使用人たちが勢揃いし迎えていてくれたから、これを待たせてしまっていたのかと思うと、なんだか申し訳ない気持ちだった。

「いえ。奥様が謝られる事ではありません。ですが、旦那様には早急にお伝えしないといけない事がございまして……」

「なんだ?」

 邸の廊下を歩きながら不機嫌そうにアーロンは答え、クウェンティンは彼から上着を受け取っていた。

「例の……旦那様の愛人を名乗る女です。行方を探させて泳がせていたところ、昨夜、奥様のご実家エタンセル伯爵邸へと裏口から入って行ったとか」

 私はクウェンティンの話を聞いて、息が止まりそうになってしまった。

 サマンサがエタンセル伯爵家に……? どうして。いえ。その事実が伝えて来る事はひとつだけ。