アーロンは、大きな勘違いをしていたようだ。私は苦笑して首を横に振った。

「ええ。これは、ヒルデガードとサマンサがしたことではありません」

 浪費癖のある放蕩者ヒルデガードが、妻にしようとしていた私に手を挙げるなんてこれまでに一切なかったし、サマンサは自分が贅沢な生活さえ出来ていれば、何の文句もないようだった。

「そうか……それでは、お茶を飲もう」

 アーロンはそれ以来、私の怪我には触れず、陛下より勝利を祝し多くの褒賞を賜った話などを話してくれた。

 自らを死んだことにして危機感を抱いた他の貴族たちからも援軍を集め、三倍もの軍勢に打ち勝ったのだから、王家直轄地であった広い領地を褒美として与えられたり、莫大な報奨金なども受け取ったらしい。

 国を守ったアーロンが今回の戦いで成し遂げたことを考えれば、それでも安いものなのかもしれない。

 私の方だって彼に、どうしても聞きたいことがあった。けれど、お茶を飲んでいる間、ずっと勇気は出なかった。

 ……どうして、私を妻に望んでくれたの? と。

 母が亡くなって義母が来たら、私はほぼ外出せずに、使用人のような暮らしをしていた。