「……わかった。ブランシュの言う通りにしよう。ありがとう。俺の今後も、考えてくれて」

 アーロンは、大人だ。

 私はこの時、そう思った。自分とは違うけれど、私の意見を受け入れ、肯定してくれる。

「いえ……差し出がましい真似をして、申し訳ありませんでした」

「謝らなくて良い。そろそろ城へ行く。ブランシュは、ゆっくり休んでいてくれ。クウェンティン。妻を頼んだぞ」

「かしこまりました」

 時計を確認してからアーロンは慌ただしく出勤し、澄ました顔をしたクウェンティンに私は聞いた。

「あの……クウェンティン……仕事しては、駄目? 暇で暇で、死にそうなの」

 これまでキーブルグ侯爵家の当主として忙しく書類仕事をしていたせいか、これからは貴婦人として優雅に生活しろと言われても無理があった。

 あの案件がどうなっているか、その後が気になって堪らないものもあるのに……。

「駄目です。奥様。先ほどお聞きになったでしょう。旦那様のご指示です」

 無表情でしらっと切り返され、私は珍しく食い下がった。

「黙っておけば、わからないでしょう。お願いだから、クウェンティン」

「奥様は僕を含め、何人かの使用人の仕事を奪われるおつもりのようですね」

 真面目な執事の言い分には何も言い返せず、私は黙って朝食を食べるしかなかった。