「待ってください! 駄目です! 殺さないでください!」

「何故……殺してはいけないんだ。ブランシュ。兄の俺が言うのもなんだが、ヒルデガードは、これからも我が家の邪魔にしかならない。あれを生かしておけば、必ず俺たちに不利益を与えるはずだ」

 これは、アーロンの言う通りだと、私だってそう思う。

 けれど、両親を亡くしているアーロンにとって、ヒルデガードは唯一血の繋がった兄弟だと知っていた。

 私だって……肉親のエタンセル伯爵である父に言いたいことは、沢山ある。

 死んでしまえば、もう話すこともわかり合う事も二度と出来なくなってしまう。

「アーロン。お願いですから、たった一人の弟を殺さないでください。死んだ人は、もう二度と戻らないのですから。血の繋がった弟を殺してしまって、貴方に未来に後悔して欲しくありません」

 言い終わってから食堂はしんとして静かになり、私はなんだか急に恥ずかしくなってしまった。

 若い時からアーロンは軍人として生きていた訳だから、殺す殺されるの世界に生きていたと思うし、子どもじみた説教をしたと思われてしまったかも知れない。