今思えば、彼だって一年振りに帰って来たら、信じられない事態が起きているのを見て、大きく混乱していたのだろう。

 夜会で妻が扇情的なドレスで、再婚相手を探したり……今思うと、本当に恥ずかしいことをしてしまった。

 けれど、あの時の夜会に居た面々は、私に火遊びを持ちかけて来るなんて、絶対に有り得なさそうだった。

 あの時の怒り狂ったアーロンを見れば、そんな気持ちはどこかに吹き飛んでしまうはずよ。

「……そうですね。私の好物ですか」

 私は答えを待っている夫に、ここで何を言うべきか迷った。

 エタンセル伯爵家では母が亡くなってから、まともな食事は与えられなかったし、キーブルグ侯爵家のシェフの作る食事は正直に言うと、私には味が濃かった。

 だから、あまり……好んでまで食すような食事がない。

「ブランシュ。困らせてしまったか? 色でも良い。好きな色はあるか?」

 アーロンは黙ってしまった私を、気遣うように言葉を重ねた。

 こういった気の利く部分を知れば、使用人たちが彼を慕っている理由がよく分かる。

「そうですね。私は青色が好きです」