僕は魔女の名前を知らなかったから、話しかける時には「ねぇ」と呼びかけなければいけなかった。


「ねぇ、なんで算数って勉強しなきゃいけないの」
「そんなの、学校の先生に訊きな。何のために学校に行ってるんだい」
「なんで学校って行かなきゃいけないの」
「あたしゃ、学校に行ってないから知らないよ。行きたくないなら、行かなきゃいいじゃないか」
「行かなくていいの？」
「どうしても行かなきゃいけない理由でもあんのかね、アンタには」


僕は少し考えた。


「だって……行くのが普通だよね」
「ふぅん」
「それに学校に行かないと、父さんも母さんもきっと怒るよ」
「なぜ？」
「普通じゃないから。周りからなんて言われるか分からないから」
「分かっているじゃないか」


魔女の言葉に僕は顔を上げた。
彼女のチリチリのグレーヘアが風に揺れる。