僕が番号を伝えると、「ありがとよ」と片手を振って、魔女は階下へ降りた。1階の売店で電話を借りる様だ。


父と母は幸い留守だった。僕は先ほど魔女がしていたように、自分の部屋のドアに背中を預けて、腰を下ろした。


10分くらい経っただろうか。戻ってきた魔女の片手には相変わらず猫が、そしてもう片方にはコーラが2本握られていた。


魔女から無言で手渡されたコーラを僕は受け取った。母がいなくて本当に良かったと思う。もし、現場を母が目撃したら、僕の鼓膜は今頃使いものにならなくなっていただろうから。


僕らはしばし、無言でコーラを飲んだ。そして僕は魔女に訊いたのだった。


「ねぇ、その唇って本物?」
「アンタのその目は偽物かい?」


僕らは顔を合わすと言葉を交わす間柄になった。あくまで、父と母が不在の時に限ったけれど。