父の仕事の都合でやって来たイギリスだったけれど、一番最初に音をあげたのは父本人だった。そしてその事が母を苛立たせ、僕が気を利かせて言ったつもりのジョークはしばしば家の中を凍らせた。だから僕は喋るのを極力控えた。そうしたら今度は今までどうやって人と話していたか分からなくなった。


極めつけに僕の左手の小指だ。


3年イギリスで過ごして、言葉の壁は薄くなった。聞き取れるクラスメイトの会話が、しばしば僕の心を抉った。


魔女と最初に言葉を交わしたのは、僕がいつも通り俯きながら学校から戻って来た時だった。


同じクラスのジョーがニマニマしながら僕に尋ねた。


「ねぇ、タオのパパとママっってヤクザって本当?」


今日が終わって明日が来る。明日が来るだけでなんと恵まれている事か。世の中には今日も明日も平和に迎えられない子供たちがいるのだから。