「もちろん怪しいわよ。あの唇、あの爪普通じゃないわ。挙句に服のセンスと言ったら! このアパートはペット禁止なのにいつも猫を抱いてるのよ。黒い服ばかり着てるのにどうして白い毛の猫を飼っているのかしら。部屋はきっとダニだらけよ。多生、絶対に近づかないのよ」


ぱさぱさして甘いだけのチョコレートシリアルを食べながら、僕は呟いた。


「でも、あの猫きれいなオッドアイだよね」
「聞こえなかった? 近づかないのよ」


2回念を押されて、僕は口を結んだ。


母にかかれば人間はいつも2種類に分類される。普通の人間と普通じゃない人間。


母にとって、僕はどちらだろうと考えてすぐに止めた。


尖った声が飛んでくる。


「多生、宿題忘れちゃ駄目よ。いつも机の上に算数のプリント、置きっぱなしでしょ」


最悪の昨日と、無気力な今日と、憂うつな明日が僕の毎日を作っていた。