その魔女は紫色の唇をしていた。


「ねぇ、その唇って本物?」
「アンタのその目は偽物かい?」


そう返されて以降、僕は魔女の唇の毒々しさ、明らかな人工色については触れていない。


僕は生まれつき左手の小指が欠けていた。


当時、僕は物事が上手くいかない原因はそこにあると思っていた。


僕が喋ると小さな笑いのさざなみがおきるのも、クラスの男子が野球やサッカーにまぜてくれないのも、割り算と掛け算の区別がつかないのも両親が喧嘩ばかりして離婚の危機なのも全部、その所為。


そう思うと楽だった。そう思わなければ、8才なんて面倒くさい時期をやり過ごすことが出来なかった。


魔女とはそういう時に出会った。


僕の人生の暗黒時代、イギリスの安アパートの隣にある日、魔女はラグドールのリリーと越してきた。


「怪しいと思わないか?」


食卓で父が言った。