魔女の呪文

隣で魔女が大きな欠伸をかみ殺した。


リリーがいなくなったのはその2週間後だった。夕食の時、ドンドンとドアを叩く音がして、父と母が顔を見合わせた。


「どちら様ですか?」


母がドアの向こうに尋ねる前に声が飛んでくる。聞いたことのない程、切羽詰まった声が。


「いないんだ。リリーがいなくなったんだ。見かけなかったかい?」


僕はそのドアを勢いよく開けた。青ざめた魔女の頬に涙が伝っていた。


「いないんだ。どうしよう。いないんだ」


外は雨だった。母が僕を睨んだ。きっと全部がバレてしまったに違いない。そして、今問題なのはそんな些末な事ではなかった。


「探そう」


子供の様に泣きじゃくる魔女の背中をさすって、僕は言った。母が慌てて僕に手を伸ばす。その手を振り払った。母が一瞬、息を呑んだ。


「きっと見つかる。一緒に探そう」