「いやマジでお前何言ってくれてんの?!」

 黄昏時迫る夕暮れ。
 いつぞやの小さな公園で、俺はベンチに座った佐村を仁王立ちで見下ろしていた。

 佐村の爆弾発言で阿鼻叫喚に陥った昼休みは、無情なチャイムで終わりを告げた。
 それはもちろん昼休みの終わりを告げるチャイムで……。
 それすなわち、俺たちを含むそこにいた面子は昼飯を食いっぱぐれたことを意味していた。

 すきっ腹を抱えながら受けた午後の授業は散々だった。
 どこからどう伝播したのか、俺を見ながらヒソヒソ話す連中は鬱陶しいことこの上なく。
 放課後になった瞬間取り囲まれそうになるなんて、ボッチの俺からしたら恐怖でしかない。
 カットインもかくやの勢いで包囲網を突破して、何故か俺の教室の方へ向かってきていた佐村の手を引っ張って学校を抜け出したのはさっきのこと。
 走って走って……たどり着いたのがこの公園だった。
 まるでデジャヴ。
 佐村と出逢ったあの日を思い出すような展開だった。
 あの時と違うのは、俺が佐村を見下ろしてることくらいだろうか。

 何故かブスくれている佐村に向かってもう一度問いただす。

「……あんなぁ、確かに高松はちょっとめんどくさい肉食女子ってヤツだが、何も俺をダシにして断ることないだろう? 俺の平穏なボッチ生活を乱すなよ」

「……じゃないです」

 ぼそぼそと佐村が何事か呟く。

「……んだよ。聞こえねぇ」

 どんどん俯いていく佐村の声が聞こえるように、俺は佐村の前にしゃがみ込む。

「おい? 聞いてんの?」

「っ! だからっ! 断る口実にしたわけじゃないです! 俺はっ! ホントにセンパイがっ……っ!?」

 俯いていた佐村の前にいたせいか、顔を上げたヤツと驚くほど至近距離で視線がかみ合った。
 あ、コイツまつ毛もなげぇ。
 なんてことに気づいてしまう位には近い距離に、佐村の顔が真っ赤に染まっていく。

「んだよ。走ったせいで今更暑くなったんか?」

 ピタリと佐村の額に手を当ててみれば、僅かに汗の湿った感触がするものの、特に体温の上昇は感じない。
 だけど、ますます赤くなっていく佐村。……大丈夫か?

「っ! ちがっ! つか、ちかっ! 前から思ってたんですけど、選択制ボッチを選ぶ割に距離感えぐいですね?!」

 ……そうか?
 首をかしげて佐村を見つめるも、頬の赤みは引かない。
 水でも買ってくるかと、立ち上がって踵を返した瞬間、ぱしりと腕を掴まれた。

「いや、ちょっと! この状況でどこいくんすか?!」

「いや、佐村の体調がヤバそうだから水でも買ってこようかと……」

「いや親切にどうも! じゃなくてですね! 俺いまアンタに告ってんですけど?! もうちっと動揺してくれませんかねっ?!」

「はぁ……」

 佐村が……俺に……告って……。

「はぁ?!」

「いや、いまさらぁ?!」

 驚愕した俺に、佐村の鋭いツッコミが入るも、真っ赤な顔で言われてもなぁってとこだ。
 て、まてまて。今コイツなんつった?

「は? 何? お前、俺が好きなの?」

 佐村に掴まれているのとは反対の手で自分を指差す。
 わが校三大イケメンの一角が何やらトチ狂ったこと言い出したんだが……。え? マジで?

「だから! そう言ってますっ!」

「いや、え?」

 一笑に付してしまいたいのは山々だったが、佐村の真っ赤な顔と真剣な目を見て思い直す。
 ここは茶化してはいけない場面だと。だけど……。
 佐村が……俺を……好き?

「いやなんで? あぁ、俺がKooだから……とか?」

 いや、それでも意味わかんねぇな。一介のゲーム配信者である俺のどこに惚れる要素があった?

「……前、コメントしたじゃないですか……」

「コメント……? あぁ、ペネトレイトさんとしてか……」

 そう、目の前のこいつの正体は……。いや逆だな。いつもKooの配信にコメントをしてくれるペネトレイトさんの正体は目の前の佐村昴流なんだろう。
 確信をもってその名を出せば、佐村の顔が少しだけはにかんだ笑顔になる。

「そっす。俺がペネトレイトです。んで、ペネトレイトとして相談したのも、アンタとのことです」

「……いや待て。俺、お前を励ましたことなんてあったか?」

 確かペネトレイトさんが仲を深めたいとしてた相手は、ペネトレイトさんを励ましてくれたからだとかなんとか……。

「ふへ……。さすがに覚えてないですかねぇ。ちょうどこの公園だったんですけど……」