ヤバいヤバいヤバい!
逢魔が時の薄闇に包まれた街中を全力疾走しながら、俺の頭の中には「ヤバい」の文字で溢れ返っていた。
ブリーチだろうに痛みを感じさせない金髪を沈んでく夕陽の色に染めたイケメンから告げられた言葉に、俺は返事をすることもなくくるりと踵を返した。そしてそのまま全力疾走だ。
普段使ってない肺が軋むような悲鳴を上げているが、とりあえずあの後輩から逃げ切ろうと精一杯に足を動かす。
僅かに夕陽の紅を残した紺碧のグラデーションが滲む空の下、やっとたどり着いた小さな公園で俺は大きく喘いでいた。
「こ、ここまでくれば……」
ぜぇはぁと息を吐きながら、ひざに手を付く。情けないほどに両ひざもふくらはぎも震えていた。
陰キャ舐めんな。運動なんて授業以外でまともにしちゃいないんだからな。
「……センパイ意外と足早いっすね」
「うっひぃぃぃ?!」
ポンと肩を叩かれ、情けない悲鳴を上げる。
飛びずさってから後ろを見れば、息一つ乱していない佐村が立っていた。マジか。これがバスケ部の実力か。入学早々レギュラーに選ばれ重要なポジションについたって噂は伊達じゃなかったか……。
「い、や、なん?! なんで追いかけてくんの?!」
「答え聞かせてもらってないんで。つか、逃げたってことは、アンタがKooで確定ですね?」
にやりと口角を上げるイケメン。顔が良いとそんな表情も似合うんだなぁって思考が現実逃避する。
じゃなくて。
「……だからなんだよ」
そう。それだ。
不貞腐れたガキのような口調になってしまったが仕方がない。
だいたい仮に俺がKooだったとしても、コイツになんの関係があるってんだ。
学校で吹聴でもするってか? 大半の人間は誰それ? で終わるだろうし、残り半分はだから何? で終わるだろう。
だから、コイツが何をもってここまで追いかけてきたかが分からない。
「いえ、別に……。ただアンタがKooだったら嬉しいなって思っただけで……」
……イケメンがそこではにかむなよ! 思わずキュンとしちまったじゃねーか! じゃなくてだなっ!
「……んで、俺がKooだったら嬉しいんだよ」
意味わかんね。
そう呟くと、イケメンは首痛いポーズをして微笑んだ。マジか……。ホントにそのポーズするヤツいるんだ……。
「いや俺、Kooの配信のファンなんですよ。ゲームのテクもすごいし、トークも軽妙で面白いし……それに……」
べた褒めだった。
引くほどべた褒めされた。
むしろ物理的に一歩引いた。
「それに……なんだよ」
「声が……好きなんですよねぇ」
恍惚という言葉がぴったりな表情をするイケメンに……怖気が走った。
イケメンにそんな表情をさせるなんて罪づくりだなぁ俺ってば……なんて花畑思考を持っていたら選択制ボッチなんて極めていないんだよっ!
何考えているかわからない、得体の知れないイケメンなんて陰キャにとって恐怖の対象でしかない。
「そ、そうか……。いつも配信聞いてくれてんだ。ありがとな。じゃまたな!」
>陰キャボッチは戦略的撤退を選んだ。
「えぇ、次の配信も楽しみにしてますね。Kooさん。いやセンパイ? ところでセンパイのお名前は?」
>だが、まわりこまれてしまった!
再び逃げ出そうとした俺の腕を、バスケ部らしい華麗な動体視力を駆使して捕まえる佐村。
えぇ、名前言わなきゃダメか?
痛くはないががっちり握り締められた自分の腕と、女子がキャーキャー言ってる佐村のご尊顔を交互に見て、俺は諦めた。
佐村の黒い瞳は、何があろうと答えを聞くまで離さないと無言の圧を放っていた。
「松雪だよ」
「名前がですか?」
「名字だよ」
「お名前は?」
グイグイ来る佐村。つか怖えよ。コイツこんなにガンガンぐいぐい来るキャラだったっけ?
噂ではもっとこう……チャラくて人当たりも良いが去る者は追わず来る者は拒まずみたいなヤツって聞いてたんだが?
だけど、現実問題掴まれた腕は解放される気配がない。ヤツが望んでる言葉を与えない限り。
「……光輝」
見せつけるように深々とため息を吐いてから、名前を告げる。
何が嬉しいのかイマイチわかんねぇが、めちゃくちゃ笑顔になった。……え、こわっ。
「光輝センパイですね?」
あぁ、だからKooなんだ……。
やっと点いた公園の街灯に照らされて、心底嬉しそうに笑う佐村。それがとても意外で……。その笑顔が何故か俺の脳裏に焼き付いた。
それが……一つ年下の後輩、佐村昴流との出会いだった。
逢魔が時の薄闇に包まれた街中を全力疾走しながら、俺の頭の中には「ヤバい」の文字で溢れ返っていた。
ブリーチだろうに痛みを感じさせない金髪を沈んでく夕陽の色に染めたイケメンから告げられた言葉に、俺は返事をすることもなくくるりと踵を返した。そしてそのまま全力疾走だ。
普段使ってない肺が軋むような悲鳴を上げているが、とりあえずあの後輩から逃げ切ろうと精一杯に足を動かす。
僅かに夕陽の紅を残した紺碧のグラデーションが滲む空の下、やっとたどり着いた小さな公園で俺は大きく喘いでいた。
「こ、ここまでくれば……」
ぜぇはぁと息を吐きながら、ひざに手を付く。情けないほどに両ひざもふくらはぎも震えていた。
陰キャ舐めんな。運動なんて授業以外でまともにしちゃいないんだからな。
「……センパイ意外と足早いっすね」
「うっひぃぃぃ?!」
ポンと肩を叩かれ、情けない悲鳴を上げる。
飛びずさってから後ろを見れば、息一つ乱していない佐村が立っていた。マジか。これがバスケ部の実力か。入学早々レギュラーに選ばれ重要なポジションについたって噂は伊達じゃなかったか……。
「い、や、なん?! なんで追いかけてくんの?!」
「答え聞かせてもらってないんで。つか、逃げたってことは、アンタがKooで確定ですね?」
にやりと口角を上げるイケメン。顔が良いとそんな表情も似合うんだなぁって思考が現実逃避する。
じゃなくて。
「……だからなんだよ」
そう。それだ。
不貞腐れたガキのような口調になってしまったが仕方がない。
だいたい仮に俺がKooだったとしても、コイツになんの関係があるってんだ。
学校で吹聴でもするってか? 大半の人間は誰それ? で終わるだろうし、残り半分はだから何? で終わるだろう。
だから、コイツが何をもってここまで追いかけてきたかが分からない。
「いえ、別に……。ただアンタがKooだったら嬉しいなって思っただけで……」
……イケメンがそこではにかむなよ! 思わずキュンとしちまったじゃねーか! じゃなくてだなっ!
「……んで、俺がKooだったら嬉しいんだよ」
意味わかんね。
そう呟くと、イケメンは首痛いポーズをして微笑んだ。マジか……。ホントにそのポーズするヤツいるんだ……。
「いや俺、Kooの配信のファンなんですよ。ゲームのテクもすごいし、トークも軽妙で面白いし……それに……」
べた褒めだった。
引くほどべた褒めされた。
むしろ物理的に一歩引いた。
「それに……なんだよ」
「声が……好きなんですよねぇ」
恍惚という言葉がぴったりな表情をするイケメンに……怖気が走った。
イケメンにそんな表情をさせるなんて罪づくりだなぁ俺ってば……なんて花畑思考を持っていたら選択制ボッチなんて極めていないんだよっ!
何考えているかわからない、得体の知れないイケメンなんて陰キャにとって恐怖の対象でしかない。
「そ、そうか……。いつも配信聞いてくれてんだ。ありがとな。じゃまたな!」
>陰キャボッチは戦略的撤退を選んだ。
「えぇ、次の配信も楽しみにしてますね。Kooさん。いやセンパイ? ところでセンパイのお名前は?」
>だが、まわりこまれてしまった!
再び逃げ出そうとした俺の腕を、バスケ部らしい華麗な動体視力を駆使して捕まえる佐村。
えぇ、名前言わなきゃダメか?
痛くはないががっちり握り締められた自分の腕と、女子がキャーキャー言ってる佐村のご尊顔を交互に見て、俺は諦めた。
佐村の黒い瞳は、何があろうと答えを聞くまで離さないと無言の圧を放っていた。
「松雪だよ」
「名前がですか?」
「名字だよ」
「お名前は?」
グイグイ来る佐村。つか怖えよ。コイツこんなにガンガンぐいぐい来るキャラだったっけ?
噂ではもっとこう……チャラくて人当たりも良いが去る者は追わず来る者は拒まずみたいなヤツって聞いてたんだが?
だけど、現実問題掴まれた腕は解放される気配がない。ヤツが望んでる言葉を与えない限り。
「……光輝」
見せつけるように深々とため息を吐いてから、名前を告げる。
何が嬉しいのかイマイチわかんねぇが、めちゃくちゃ笑顔になった。……え、こわっ。
「光輝センパイですね?」
あぁ、だからKooなんだ……。
やっと点いた公園の街灯に照らされて、心底嬉しそうに笑う佐村。それがとても意外で……。その笑顔が何故か俺の脳裏に焼き付いた。
それが……一つ年下の後輩、佐村昴流との出会いだった。
