○前回からの続き 場面は校長室

 校長は遠慮がちに席を外す。

 二人きりになり、状況が飲み込めない穂花。
麒麟「どうしました? もしかして羊羹はお嫌いでしたか」
穂花「い、いえ。状況が飲み込めなくて」
麒麟「先日は、女性と話すにはラフな格好でした」
穂花(いや、ラフというか……)。
 明らかに先日とは、ファッションセンスが違う麒麟を見る穂花。
穂花(けど、服装は違うけど、あの優しい感じは……おんなじ)
麒麟「白澤は、私にとって大切な存在。あなたは、あの子を保護しようとしてくれた。そのお礼をしなければ、私の気持ちがおさまりません」
穂花(あ、あの猫ちゃんのこと)
 それで麒麟が訪ねてきた理由に、幾分か納得がいった穂花。
麒麟「それであなたの制服で学校まではわかったのですが、それ以上はこの似顔絵で」
 そう言って、麒麟が差し出した紙に、穂花の似顔絵が描かれている。似顔絵は水墨画で、特徴をよく捉えており、芸術品としても魅力的だった。
穂花(素敵な似顔絵)
麒麟「僕の記憶を頼りに描いたのですが、よかった。目の前にいるあなたの魅力を、うまく表現できていました」
 褒められて、顔を赤くする穂花。
麒麟「白澤が人間になつくというのは大変珍しいことなんです。それで、あの子もあなたに会いたがっているので」「もしよければ、日曜日、私の別荘で行われるパーティにあなたを招待したいのですが」
穂花「別荘! パーティ!」
 いきなり浮世離れしたさそいに、思わず声が出る。
穂花「そんな、いきなり」

 気まずい沈黙。
 そして麒麟の携帯が鳴る。
麒麟「え、すぐに撤収しろ……。すみません、また日を改めて会いにきます」

 そう言って、慌てた様子で校長室を後にする。
 一人残された穂花は、麒麟が残した最後の言葉が気になる。
穂花「また日を改めて、って……」


○教室

 麒麟の誘いを保留し、教室に戻った穂花。
 今ままで彼女に無関心だったクラスメートが質問攻めにする。
 しかし穂花は、戸惑いながら、その質問に答える。
男生徒「なあ、蛍里。あの車、レオーネ・グランデのフルカスタムだろ。持ち主は誰だよ」
穂花「え、車のこと、全然わからなくて」
 と同時に、穂花は肝心なことを思い出す。
穂花(そういえば、私。あの人の名前も正体も聞いてない)
女生徒「なんで蛍里が、あんなイケメンのお金持ちと知り合いなの」
穂花「あ、あの人の飼い猫を保護して、そのお礼に」
 それほど深い関係ではないと知り、少しテンションが落ち着くクラスメイト。
 穂花も質問攻めを終わらせるために、羊羹を見せる。
穂花「それで、この羊羹をお礼に持ってきてくれて」
 それを見た薫が、関心して言う。
薫「麒麟堂の羊羹か。超高級品で、ビジネスの手土産の定番だね」
 いきなり現れた美貌の金持ちは、猫のお礼に来た。それで、クラスメイトも納得して引き始める。

 先ほど車のことを聞いた生徒が、口おしげに穂花に声をかける。
男生徒「蛍沢、もしまたあの人と会うことあったら、車の写真、頼むっ!」
 そう言って手を合わせる。
 そのお願いに穂花は、また会いに来ると告げた麒麟のことを思い出す。 
 今までにない、砕けた感じのクラスメイトからの声がけに、穂花は少し引き攣った笑顔で返事する。
穂花「うん、その時は頑張る」
男生徒「ありがとな、けど無理すんな」
 遠巻きに女子生徒が「じゃあ、あのイケメンの写真もお願いね」と、声をかける。

 そんなやりとりの後、穂花は再びクラスを見る。
 穂花は話題の中心ではなくなり、皆がそれぞれの話題に盛り上がっている。
 その光景を見る穂花の表情は、昨日のように暗く沈み込んでおらず、クラスに滲むきっかけを手に入れた感じで、穏やかな表情だった。

 そして胸にしまった、自分の似顔絵に手を当てる。
 なんだか心が暖かくなる穂花。
穂花(せっかくのお誘い、断らなきゃよかったかな)


○ハイパーカーを運転する麒麟

 助手席には猫形態の白澤。
 サングラスを取り、高速道路を運転する麒麟。
 麒麟は少し落ち込んでいる様子。
白澤「麒麟様、無事、お礼を届けれて良かったじゃないっすか。まあ、おいらが撤収の連絡を入れなきゃ、また自滅しそうでしたけど」
 少し意地悪げな白澤。
麒麟「そうですが……パーティには来てもらえなかったです。皆のアドバイスを聞き入れたのにダメでした」
 麒麟のセリフに、ニヤリと笑う白澤。

 回想シーン。
 穂花に会いに行く際のアドバイスをする四聖獣。
青龍「女性相手に、二人きりで会おうとすれば警戒を招きます。まずはその女性の上官の立ち合いもの元、礼を述べるのがよろしいのでは」
玄武「恩義ある方に会いに行くなら、きちんとした手土産を持参は必須。確か、人間社会では伊勢丸デパートの麒麟堂の羊羹が定番と聞いております。すぐに用意させましょうか?」
朱雀「あと、麒麟様の選ぶ人間の服、センスねえっすから俺が選びますよ」
白虎「最初の印象が大切ですから、この間、献上された自動車に乗っていけば、人間の女性へのインパクト大」
 変わるがわる、好き勝手なアドバイスをしてくる四聖獣。
 そして、四人は声を揃えて麒麟に圧をかける。
四人「もし、その女性が『魂の伴侶』なら、絶対に嫌われたらダメですよ」
 その勢いに、たじろぐ麒麟。

麒麟「嫌われてなければ、良いのですが」
 人間関係、特に女性との機微には自信がない麒麟。
白澤(上位の聖獣ほど、人間と感覚がずれてるからなぁ。なかなか前途多難だ)
 ハンドルを握る麒麟を横目に、呆れる白澤。


○帰り道の穂花

 穂花は一人、麒麟が描いた水墨画を見る。
穂花「私、こんな可愛くないのに」
 自己価値が低い穂花。
 サングラスをしているが、穏やかな雰囲気のキリンのことを思い出す。
穂花(すごい車に、派手な背広。そして高価な手土産。なんか、とっつきにくい存在のはずなのに……なんだろ、あの人の雰囲気は。側にいるだけで、心が温かくなる)
 自画像を見る穂花は、嬉しそうな表情をする。