○ヒロインの夢の光景

 霧の中、彷徨う穂花。
 その表情は不安げ。
 ここに優しい光を纏った、獣人形態の麒麟が現れる。
 人ならざる美しい姿に見つめられ、ドキッとする穂花。
 そして麒麟は優しく語りかける。
麒麟「探しましたよ。わたしの『魂の伴侶』」
 そう言って、麒麟はひざまづずき、穂花の手の甲に口付けする。


○穂花の家 登校前

 穂花がラジオをつけながら、朝食の準備をしている。
ラジオ「先日、北海道稚内に出現した、巨大な妖魔ですが、聖獣玄武様により浄化され……」
穂花「また、妖魔のニュースか」
 ラジオから流れるニュースが、物語の世界が聖獣と妖魔がいる現代日本ということを示す。
 料理を作り終わった穂花。
穂花(私が生まれた頃から、この国には妖魔が出没するようになったという)(お母さんの若い時には存在しなかったらしい。妖魔も、そしてそれを退治する聖獣も)
 穂花の暗い表情。
穂花(だけど妖魔も聖獣も、この家と学校を往復だけの私の単調な日常には、何の関係もない存在)

 ご飯ができたので、家族がやってくる。
母「穂花ちゃん、いつも料理ありがとうねぇ」
継父「何だ、今日も質素な飯だな」
 母は口だけの感謝。
 継父は感謝も見せず、雑に食事を始める。
 そこに義妹の愛成瑠(以下、アイナ)がやってくる。
アイナ「ちょっと、あたしのモーニングは、シリアルにしてっ言ったよね?」
 明らかに穂花の料理に不満げ。けど、味は悪くないので、食べる。
アイナ「こんなしょぼい料理じゃ、映えないのよねぇ」
 スマホを見ながら食事するアイナ。
アイナ「ねぇ、パパ。そろそろ新しいスマホが欲しい。もっといいカメラのやつ」
母「ア、アイナちゃん、うちにはそんなお金の余裕は……」
継父「チッ、お前の親父の遺産、まだあるだろ?」
アイナ「さすがパパ。気前いい」
継父「まったく、俺の娘が人気者になるための金ぐらい、ケチるなよ」
 と、二人で母を責める。母は、力無く笑うしかできない。

 そんな三人から離れたところで、一人で朝食を食べる穂花。
穂花(この家は、おじいちゃんと、おばあちゃんが建てた家なのに)(突然やってきた、あの二人がまるで自分の家のように)
 穂花が食事を食べ終えた頃、アイナが私立のおしゃれな制服に着替え、元気に登校する。継父は、アイナにこやかに手を振って送り出す。
 一方の穂花は、地味な感じの公立高校の制服で、暗い感じで登校していく。
 ふと、後ろを振り返ると、閉まった玄関ドアが映る。
 誰も見送りはしていない。


○学校 お昼ご飯

 教室では、にぎやかな感じで、皆が昼食をとっている。
 そんな中、穂花だけは教室の隅で、一人で弁当を食べている。
 穂花の机に女子生徒がぶつかる。その女子生徒は「あっ」とだけ口にして、そのまま通り過ぎる。
 穂花に対して悪意があるわけではない。クラスメイトにとって、穂花は路傍の石のような存在でしかない。


○帰宅

 放課後。
 部活に励む生徒、楽しそうに話しながら帰る帰宅部の生徒。
 そんな中、穂花は一人で帰宅する。家に居場所がないので、その表情は暗い。
 帰宅途中、猫の鳴き声が聞こえる。
 その方向に目を向けると、子猫の姿の白澤が、ミャアミャア鳴いている(可愛い)
 穂花は、慌てて周囲を見るが、他の人間も母猫の姿も見えない。
穂花「迷子の子猫かな」
 空ではカラスが鳴いている。
 戸惑う穂花の方に、白澤がやってきて、足元にすりすりする。
 その可愛さに、ドキッとする穂花。
 だがすぐに、現実の問題を考える。
穂花「うちでは飼えないし、どうしよう」

 
○富士山の麓 聖獣の宮殿

 富士山を背景に、豪華な神殿の光景。
 そして、その中の和風の豪華な部屋。
 そこに麒麟と四聖獣(北海道にいる玄武は除く)がいる。 

 子猫を保護して戸惑う穂花の様子を、水晶玉越しに獣人形態の麒麟が眺めている。 *獣人形態の麒麟は、穂花の夢に出てきた獣人と同一人物。
麒麟「まったく、白澤は。急にいなくなったと思ったら。聖域を抜け出して、人間界で遊んでいるとは」
 麒麟に対し、獣人携帯の四聖獣が声をかける。
白虎「まあ、人間界も楽しいことが多いっすからね。白澤らしい」
青龍「しかし外界に出るなら、一言断って行くべきだ」
朱雀「それで麒麟様に心配かけるなど、聖獣としての自覚が足らんな」
 麒麟は、白澤が穂花に懐いている様子を見て、不思議そうな表情。
 そして何かを決意した表情で、後ろに控える部下に声をかける。
麒麟「すぐに白澤を迎えに行きます」

朱雀「麒麟様、人間界へ行くんですか?」
麒麟「もちろん、ちゃんと人の姿で行きます」
白虎「獣人の姿では目立ちますからね」
 麒麟のファッションセンスの無さを知っている白虎は、含みのある笑いを浮かべる。
青龍「外界は霊力の消耗が激しいですから、自分が代わり行きましょうか?」
 青龍の申し出を、軽く首を横にふり遠慮する麒麟。
麒麟「いえ、私自身が確かめたいことがありますので」(しかし、なぜ白澤が、人間に懐くのか?)
 本来は人に懐かない白澤が、穂花に懐いていることを疑問に思う麒麟。

○人間界 穂花の帰宅途中

 穂花は白澤を可愛がりながらも、他に頼れる存在もおらず、途方に暮れている。
 そんな穂花を、白澤は子猫ではなく、人間っぽい表情で見つめる。