ホームズは血の気が引いた。



 その瞬間、隣の部屋で寝ていたワトソンを叩き起こす。



「ワトソン! 起きろ!」

「うわっ! な、なんだホームズ! お前いつ帰った――」

「美月はどこだ! どこへ行った!?」




 ワトソンは一瞬で目を覚ました。

 ホームズの顔には焦燥と怒りが入り混じっている。



「……まさか、拐われたのか!?」

「…!?」



 ワトソンは昨日の出来事――レストランでの脅迫文のこと、
そして“駅での待ち合わせ”の話を早口で説明した。

 ホームズは言葉を聞くなり、机を拳で叩いた。




「くそっ! 嵌められた!」


「ワトソン!待ち合わせの時間は?!」


「正午……あと三時間だ!」



 二人はコートを掴み、外へ飛び出した。

 霧の街を駆け抜け、馬車に飛び乗る。

 蹄の音がロンドンの朝に響いた。