一方その頃――。





 下宿の扉が乱暴に開いた。
 霧を纏った長身の影が立っていた。
 ――シャーロック・ホームズ。




「……戻ったぞ。」




 部屋の中は静まり返っている。

 ハドスン夫人が驚いて顔を出した。



「まあ! ホームズさん! お戻りに――」


ホームズは返事もせず、美月の部屋に向かった。




 扉を開けた瞬間、冷たい空気が流れ込む。



 ――いない。



 机の上には、昨日の夜に使ったティーカップと、


 開いたままのノート。


 ページには、美月の小さな字で「ホームズさんを信じてる。」と書かれていた。

「……まさか」