そのころ、ロンドンの裏通りにある古いバー。




 薄暗い店内の奥で、二つの影が向かい合っていた。

 ひとりは、冷たい瞳をした男――シャーロック・ホームズ。


 もうひとりは、上品なスーツをまとい、知性の光を宿した微笑を浮かべる――モリアーティ教授。



「ようやく会えたな、ホームズ君。」

「……お前が“あの御方”だな。」


グラスに注がれたウイスキーが、ランプの灯を反射してきらめく。

 互いの視線が、鋭く交錯した。




「君のそばにいるあの"美月"という女性。――未来から来たのだろう?」



 ホームズの眉がわずかに動く。



「お前の興味は相変わらずだな、モリアーティ。だが、あの娘には指一本触れさせん。」


「ふふ……そう思うなら、君が動けばいい。
 君が彼女を守るほど、彼女は罠に堕ちていく。」


 その言葉とともに、モリアーティの口元がゆっくりと歪んだ。


 ――ホームズは、自らの意思でモリアーティの罠の中に足を踏み入れていた。