下宿先に戻っても、ホームズの姿はなかった。
 ハドスン夫人も心配そうに玄関先を見つめている。


「罠に決まってる。警察に連絡を――」


「でも、ホームズさんが本当に危険な目にあってたら……」



 美月の声が震えた。


「それでも、君を行かせられない。」


 ワトソンが即座に言い放つ。



「美月、明日は絶対に一人で行くな。モリアーティの罠に決まっている。」

「……でも、私は、退きません!」


 真っ直ぐな瞳で、美月はそう言い切った。


「ホームズさんが私を守ってくれた。今度は私が守る番です」

 ワトソンは拳を握り、数秒の沈黙のあと、ため息をついた。


「……わかった。君がどうしても行くというなら、俺が後をつける。絶対に一人にはしない。」



 その約束で、二人はようやく落ち着いた。

 けれど、美月の胸の中の不安は、夜が深まるごとに大きくなっていった。