彼の表情が一瞬で変わる。


「……やられたな。」


 ワトソンが振り向いた時には、黒いハットの男はすでに立ち上がり、出口へ向かっていた。



 ワトソンはすぐに追いかけたが、男は群衆の中に消えていった。



 雨の匂いが混じる夜の街。

 ワトソンは舌打ちをしながら戻ってきた。




「逃げられた……くそっ!」


美月はナフキンを握りしめたまま震えていた。




「おそらく、――モリアーティ教授の差し金だと思います。」



 その名を聞いて、ワトソンの顔が険しくなる。

「……なるほど。美月を釣るためにホームズを利用するつもりか。」