――けれど、次の瞬間。
「お待たせいたしました、ナフキンをお持ちしました。」
店員が差し出した白いナフキンを見て、美月は首を傾げた。
「え? 頼んでませんけど……」
「いえ、あちらのお客様からです。」
視線の先――黒いハットを深くかぶった男が、こちらを見ずにワインを傾けていた。
顔は影に覆われていて、誰なのかわからない。
美月は不安を覚えながら、そっとナフキンを広げた。
――その瞬間、息が止まった。
『ホームズを誘拐した。今ここでお前の素性をばらされたくなければ、この駅に一人で来い。
一人で来なければ、ホームズを殺す。』
震える指先。
ナフキンの端には、見慣れない筆跡で駅の名前が記されていた。
「ど、どうしよう……ホームズさんが……!」
「美月、どうした?!」
ワトソンが立ち上がり、紙をひったくるように見た。



