そんな美月の様子を見て、向かいに座るワトソンが、優しく首を傾げた。


「どうしたんだい? ステーキが固かったかな?」


「ち、ちがいます! ……その……ホームズさんのことを、ちょっと考えてただけです。」



「なるほど、ホームズのことか。」


 ワトソンはくすりと笑い、グラスのワインを揺らした。


「……ホームズさんて、私のことどう思ってるんでしょうか。」



 ワトソンは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに口元を緩めた。



「まったく。君も随分と難事件を抱えたもんだね。」



「えっ?」


「世界一不器用な男の心を読み解く――それこそ、ロンドンで最も手ごわい謎さ。」



思わず美月は吹き出した。


「ワトソンさん、笑いごとじゃないんですよ。」


「冗談じゃないさ。ホームズは君を……誰よりも大切にしているよ。」


 ワトソンの声は、静かに、しかし確信に満ちていた。


「不器用な探偵だからな。愛の伝え方まで、理屈で考えてるんだろう。」


その言葉に、美月の胸がふっと温かくなった。