それから一週間が過ぎた。
ホームズは連日、モリアーティ教授の捜査に没頭しており、ほとんど下宿先に顔を見せなかった。
静かなベイカー街の一角。ワトソンと美月は、久しぶりに外で食事をしようと、ロンドン中心部のレストランへと足を運んでいた。
店内は、クラシック音楽が流れ、グラスの音と笑い声が響いている。
なのに、美月の心はどこか落ち着かない。
――一週間前、ホームズとソファでの出来事のあの夜ことが、頭から離れなかった。
(あのとき……ホームズさん、からかっただけなのかな)
胸の奥に残る、前に一度だけ交わした唇の温もり。
そして、「勝手に帰るな」という言葉。
あれは、ただの勢いだったのか、それとも……。
"もう真相にはたどり着いているんだろう?"
耳元で囁くホームズの言葉。
頬に熱がこもる。ナイフとフォークを持つ手が、わずかに震えた。



