「え? ええっ!? もしかして、それ言わせるためだけに……!?」


「当然だ。子供は寝る時間だ。」

「こ、子供って――!」

 カッとなった美月が立ち上がると、ホームズはちらりと振り返って、唇の端を上げた。


「何だ?……まさか、続きをしてほしかったのか?」

「~~っ! も、もう! おやすみなさい!!」


真っ赤な顔で部屋を飛び出す美月。


 廊下に出ても、胸の鼓動が止まらなかった。
 頬は火照り、指先まで熱い。



「……ずるい人……」



 ぽつりと呟き、部屋のドアにもたれかかる。
 その顔には、恥ずかしさと、ほんの少しの幸せが滲んでいた。









一方その頃、ホームズは机に戻り、硬い表情で呟いた。


「モリアーティ――やはり、奴が背後にいるのか……」


 パイプの煙が、静かに夜の闇に溶けていく。

 その煙の向こうに、美月の微笑みがふとよぎり、ホームズはほんの一瞬だけ目を閉じた。


「……お前の未来も、この事件も、俺が守る。」


 ランプの灯が揺れる中、ホームズの決意だけが、夜のロンドンで静かに燃えていた。