翌朝。
いつもより明るい声でハドスン夫人が言った。
「まぁ、美月、顔が赤いわねぇ。昨夜はホームズさんと何かあったんじゃなくて?」
「ち、違いますっ!」
カップを落としそうになって慌てる美月。
そこへ、新聞を手にワトソンがやってくる。
「おいホームズ、ここは壁が薄いから、あまり派手にやるなよ?」
「な……っ!? ワトソン、何を――!」
ホームズが珍しく顔を真っ赤にして噛みつく。
その様子を見て、ハドスン夫人がくすくす笑った。
「まぁまぁ、若いっていいわねぇ~。」
「ち、ちが……違います! ほんとに!」
美月は必死に否定するが、誰も信じてくれない。
ホームズは腕を組み、顔をそむけながらぼそりと言った。
「……騒がしい朝だ。」
しかしその頬には、かすかに笑みが浮かんでいた。
切り裂きジャックの事件は終わった。
けれど、美月の心は静かにざわめいていた。
“あの御方”とは誰か。
そして――この恋の行方は、どこへ向かうのか。
霧のロンドンの空に、まだ夜明けは遠い。
しかし、美月の中には、確かに光が灯っていた。



