言葉を続けようとした美月の前に、ホームズが立った。


 その顔には、怒りでも悲しみでもない。


 ただ、感情が溢れて処理しきれないような複雑な表情。




「帰るだと? まだ何も解けていないのにか?」

「え?」


「お前という“謎”をだ。俺の人生で最も難解な事件を、まだ解き明かしていない!」




ホームズの声は熱を帯びていた。
 美月は驚いて一歩下がる。



「ほ、ホームズさん……?」


「推理より難しい。理屈では説明できない。なのに、お前は帰ると言う。」



 壁際まで追い詰められ、美月の背中がぴたりと当たった。
 距離は、あと数十センチ。
 ホームズの瞳が、真っ直ぐに美月を捕らえる。




「俺を甘く見るな、美月。」