夜。




 ロンドンの街は霧に包まれ、ガス灯がぼんやりと浮かんでいる。
 ホームズの部屋の窓からも、淡い光が漏れていた。



 机の上には、ジャックザリッパー事件の全容と思われる資料が散乱していた。


 ホームズはパイプをくわえながら、眉をひそめていた。
 そんな背中に向かって、美月は小さく声をかけた。



「ホームズさん……」



 ホームズの手が止まる。
 彼女の声は、どこか決意を含んでいた。



「どうした?」



 美月は、胸の前で手をぎゅっと握りしめる。



「私……未来に帰る手がかりを探そうと思います。」



 その瞬間、空気が止まった。
 ホームズの瞳が、かすかに揺れる。



「……なんだと?」


「ジャックザリッパーのことも、“あの御方”のことも……きっと、私がここに来たことで、この世界に何か歪みが生じているんだと思うんです。だから――」