「"あの御方は、お前がどこから来たのかを知っている。"」


 ホームズの眉がわずかに動いた。


「……“あの御方”だと?」

「はい……。その意味がわからなくて……」





 沈黙。

 火の音だけが、ぱちぱちと響く。

 やがてホームズは、椅子を立ち、美月の正面に来た。
 そして何の前触れもなく、美月をまた強く抱き締めた。



「えっ、ちょ……ホームズさん!?」


「お前は、しばらく外出禁止だ。」

「な、なんで今、抱きしめながら言うんですかっ!」

「強調だ。理屈より、体感のほうが伝わるだろう。」

「理屈おかしいですよ!!」

 顔を真っ赤にして暴れる美月に、ハドスン夫人は紅茶を吹きそうになりながら笑いをこらえた。

ホームズは真剣な目で、美月の頭に手を置いた。

「……もう二度と、ジャックザリッパーに会わせはしない。約束しよう。」

 その言葉に、美月の胸が熱くなる。

 怒られたのに、怖かったのに、どうしようもなく嬉しかった。