美月はすぐに駆け寄った。
「おばあさん。大丈夫ですか?」
「おお、すまないねぇ……手が滑ってしまってね。」
美月は拾い上げながら微笑む。
「運びましょうか? どちらまで?」
「じゃあ向こうの家まで、お願いできるかい?」
少しだけ――そう思って、美月はうなずいた。
だが、老女の足取りはどんどん路地裏の方へと向かっていく。
霧が濃くなり、街灯の光が滲んでいた。
「……あの、そろそろ戻らないと……」
「ふふふ……戻る?」
その笑い声は、低く、歪んでいた。
老女の背が、みるみるうちに伸びていく。
背中が伸び、フードの下から覗いた顔は――。
人間とは思えない、冷たい笑みを浮かべた男だった。



