数日後。
ロンドン中は「切り裂きジャック」の話題で持ちきりだった。
街角の新聞売りが叫び、女性たちは夜道を恐れて早足で帰る。
その日、美月はハドスン夫人と買い物に出かけていた。
「まぁ、この紅茶葉は新しく入荷したばかりなのよ。美月、どう思う?」
「とてもいい香りです!」
笑顔を見せる美月だが、どこか心が落ち着かない。
外は曇天、遠くで雷鳴が響いていた。
買い物を終える頃、雨がぽつり、ぽつりと降り始める。
「まぁ、いけない。少しトイレに行ってくるわね。ここで待ってて。」
「はい、ハドスン夫人。」
その時だった。
道の向こう側で、腰の曲がった老女がりんごの入った袋を落としてしまっていた。



