同日の午後。




 ホームズは、書斎で事件資料を広げていた。
 地図の上に赤いピンが何本も刺され、その線がホワイトチャペルの街区を形作っている。




「ホームズさん!」




 美月は勢いよく扉を開けた。




「……なんだ。ノックくらいしたまえ。」

「そんなこと言ってる場合じゃないんです! あの事件、知ってます。どうか私も協力させてください!」


 ホームズの目が細められた。



「知っている? ……まさか、未来の知識か?」


美月は黙って頷く。




「被害はまだ広がるはずです。だから止めないと――!」



「だめだ。」


 即答だった。




「だめって……どうしてですか!?」



「未来の出来事を知っていても、君が行動すれば歴史が変わる。もし君に何かあったら――」




「でも――!」

「美月!」