朝のロンドンは、灰色の霧に包まれていた。
パイプの煙のように街の屋根から立ち上る霧が、白く冷たい空気をさらに沈ませる。
その日、美月はワトソンの部屋のソファに座り、紅茶を飲みながら新聞を広げていた。
「……え?」
ページの隅に、見慣れない記事が目に留まった。
“ホワイトチャペル地区で新たな猟奇殺人。被害者は女性。遺体は無残な状態で発見された――”
美月の指が震えた。
その文字の下に書かれた名に、見覚えがあった。
“犯人は《切り裂きジャック》と呼ばれている――”
――ジャック・ザ・リッパー。
未来の歴史の授業で聞いたことのある、最悪の連続殺人事件。



