一方そのころ、美月はロンドンの街を歩いていた。

 石畳の上を、ヒールの音が小さく響く。
 冷たい風が頬を撫でた。

「……ばかみたい」

 自分の声が、小さく夜の街に消える。

 未来に帰ることを知っている。

 それでも、心のどこかで、ホームズに“私を見てほしい”と思っていた。



 なのに、あんな言葉。



 まるで、自分がただの通りすがりみたいじゃないか。

ふと、空からぽつりと水滴が落ちた。

 次の瞬間、激しい雨が降り始める。


 「……うそ、傘、ない……」


 トンネルの陰に駆け込み、壁に背を預ける。
 服も髪もぐっしょり濡れて、身体が震える。

 ぼんやりと滲む街灯の光の中で、美月は小さく呟いた。





「こんなに……好きだったの、私だけなのかな…」






 そのとき――