階段を降りたところで、ワトソンと鉢合わせた。


「おや、美月、どうしたんだい?」

「ちょっと……外で頭を冷やしてきます!」


 スカートを翻して出ていく美月を見送りながら、ワトソンは眉をひそめ、上の階へと向かった。


「……で、今のは一体どういうことだ、ホームズ?」

「事実を述べただけだ。彼女はいずれ未来へ帰る。それが――」


「それが何だ? お前の口から“未来への土産”なんて言葉が出るとは思わなかったよ。」


 ホームズは言葉を詰まらせた。

 ルーペを持つ手が、わずかに震えている。


 ワトソンは苦笑しながら言った。

「お前、気付いてないのか? 美月はお前のことを…」



ワトソンは言いかけてやめた。それは、いづれ彼らの問題だからだ。



 沈黙。


 ホームズの表情に、わずかに影が落ちた。