「未来に帰ったとき、友人たちにでも話せばいい。“シャーロック・ホームズの相棒とオペラを楽しんだ”とね。」
その言葉が、なぜだか心に刺さった。
軽い冗談のようでいて、どこか突き放すような声音。
美月は俯いた。
「……そうですよね。どうせ、私はいつか帰る身ですもんね。」
ホームズは眉をひそめた。
「何をそんなに怒っている?」
「怒ってません!」
声が少し上ずる。
――なのに、胸の奥がチクリと痛んだ。
「ホームズさんって、本当にデリカシーないですよね!」
カップの紅茶が少し揺れた。
「デリカシー? 事実を言ったまでだ。」
「そういうところです!」
そのまま、美月は立ち上がり、勢いよく部屋を出て行った。
扉の向こうで、ふっと空気が冷たくなる。



