オペラの帰り道。
 美月とワトソンは夜のロンドンを歩いていた。



「すごかったですね、アイリーン……!」


「ああ。彼女の才能は本物だ。」


 ワトソンの優しい声が、霧の夜に溶ける。




 ふと、美月が前方を指さした。

「……あれ、あの背中……」

 街灯の下に、見覚えのある長身の男の影。
 隣には、あのオペラの主役――アイリーン・アドラー。


ホームズが彼女と穏やかに話していた。
 美月の足が止まった。



「……嘘。」



 心がざわめく。

 ワトソンがそっと肩に手を置いた。

「きっと依頼の話さ。」

 でも、美月はその“依頼”という言葉に、自分の鼓動をごまかすようにうなずいた。


 (依頼……そう、ただの仕事……)



 そう思えば思うほど、胸の中が熱くなる。