幕が上がる。




 音楽が響き渡り、舞台に立つ一人の女性――
 その瞬間、美月は息をのんだ。




「……アイリーン・アドラー……!」



 光に包まれた彼女は、まるで物語の中から抜け出したように美しく、そして強く輝いていた。


 その歌声は、優しく、そして誇らしかった。


 美月の心臓がどくんと鳴る。

 シャーロック・ホームズの小説、“ボヘミアの醜聞”の中で読んだ、あの女性。


 ホームズを出し抜いた唯一の女性。


(ホームズさん、もしかしたら、あの人のこと……――)


 考えた瞬間、胸の奥がチクッと痛んだ。




(あれ………?)



 なぜ痛むのか、自分でもわからなかった。