「ホームズ、たまには人間らしい時間を過ごしたらどうだ。美しい歌声には、癒しの効果があるらしい。」




 ホームズは、ちらりと美月を見る。


 ほんの一瞬だけ、微妙に口元が動いた――それが照れ隠しなのか、ただの皮肉なのか、美月には分からなかった。




「……君たちで行くといい。私は“退屈しのぎ”の依頼が舞い込んできたところだ」



 すぐに上着を羽織り、長い足で部屋を出ていく。

 扉が閉まる音とともに、部屋の空気がすこし沈黙した。


美月は、ため息交じりに呟いた。


「……なんか、ちょっと、感じ悪くないですか?」

 ワトソンがくすっと笑う。


「彼なりの“やきもち”さ。」

「……え?」


 ワトソンは新聞をたたみながら、にやりと笑った。



「ホームズにそんな感情はないと思ってたかい? 彼も君が誰と出かけるかくらい、少しは気になるんだよ。」




 美月の頬が、ぽっと赤くなった。