――ロンドンの午後。




 霧のカーテンを透かして、陽の光が少しだけ差し込む。

 221Bベーカー街の居間では、美月がティーカップを持ったまま、うきうきと笑っていた。



「オペラですか!? 本物の!?」


 ソファの向こうで新聞を広げるワトソンが、優しく頷いた。



「そうだよ、美月。ロイヤル・オペラ・ハウスの公演に招待されたんだ。今夜、一緒にどうかな?」


「行きますっ! 行かせてください!絶対行きます!!」


両手を合わせて目を輝かせる美月に、ワトソンは「そんなに?」と苦笑いを浮かべた。






 その隣。


 ホームズがルーペ越しに新聞の小さな記事を覗き込みながら、低い声でぼそりと呟いた。

「へぇ……オペラ、ね。」

「ホームズさんもどうですか? たまには頭の中の推理マシンを休めないと、爆発しますよ?」

「心配には及ばない。私の頭脳は蒸気機関車よりタフだ。」

「……例えがよく分かりません。」


 美月が小さく笑うと、ワトソンが肩をすくめた。