「ふぅ……やっと終わりましたね。」
私が馬車の窓を見ながらつぶやくと、隣でホームズが新聞を折りたたんだ。
「“終わった”と言うのは早計だ、美月くん。
どの事件も、真実を暴いたあとが一番危険だ。」
「え、まだ続きがあるんですか?」
「いや、もうない。今のは比喩だ。」
「……ややこしい言い方しないでくださいよ!」
「観察力を鍛える訓練だ。」
まったく、この人は何を言っても正論で返してくる。
でも、不思議と腹は立たない。
むしろ、こうして言い合っている時間が少し楽しかった。
窓の外には、灰色の空と、どこまでも続く荒野。
その向こうに、かすかにロンドンの灯が見え始めていた。
馬車の車輪が石畳を叩く音が、心地よく響く。



