夜、霧の中で犬の遠吠えが響いた。
 私たちは屋敷の外に出て、荒野の影を追った。

 足元には泥。
 冷たい風が髪を揺らす。
 その瞬間、丘の向こうに――黒い影。



 「ホームズさんっ!」



 叫ぶ私の声に、彼が即座に反応した。
 コートの裾を翻して、彼は私の前に立つ。



 銃声。
 闇の中を裂く閃光。


「下がれ!」


 ホームズの声が鋭く響く。
 心臓が跳ねる。
 でも、不思議と怖くなかった。
 彼の背中が、まるで盾みたいに見えたから。



 ……それからのことは、早すぎて覚えていない。


 気がつけば、霧が晴れ、
 魔犬の正体も、全ての真相も――ホームズの推理で明かされていた。

 科学の光が、迷信の闇を切り裂いた夜。
 その瞬間、私は確信した。




 やっぱり、この人は本物だ。