「……そこにいるのは、誰だ?」

 低い声に、全身がビクッとする。

 振り向くと、ホームズがこちらを見上げていた。

 あの灰色の瞳が、まるで霧を裂くように鋭い。

「み、私です……」

「盗み聞きとは趣味が悪いな。」

「ち、違います! ちょっと、通りかかっただけで!」

「“通りかかる”には、階段の影は随分と都合がいい場所だ。」



「うぐ……!」



軽くあしらうその態度に、悔しさよりも――

 ちょっとだけ、嬉しさが混じっていた。

 この人の言葉は、いつも棘があるのに、なぜか痛くない。

 私は意を決して、言葉を放った。


「あの!……私も、その事件に行きたいです!」

 部屋の空気が、一瞬だけ静まり返った。

 ホームズが、きょとんとした表情でこちらを見る。


「君がか?」

「はい! 役に立てるかわかりませんけど、
 あの……捜査とか絶対邪魔しませんから!」


 ――ほんとは怖い。

 でも、ここに来てから、ずっと感じていた。

 この人の隣で、何かを見て、何かを感じたい。


 ホームズは椅子の背にもたれ、ゆっくりと私を見た。


「……君のような子供を連れて行くわけにはいかない。」

「子供って……!」

「おおかた年齢は、十八歳、ってとこだろう?」

「っ!」