キッチンでお湯を沸かしながら、私はひとり苦笑する。


「もう……ホームズさん、どうしたんだろう……」


 湯気の向こうで、自分の顔が赤く映る。

 まさか、あの名探偵ホームズが嫉妬?




そんな可能性が頭をよぎる、

いやいやいや、あの小説の中のホームズだよ?


ないない。


 そう思うと、可笑しくて、でも何故かどこか嬉しくて。


 紅茶を淹れ直して戻ると、二人は何やら真剣な話をしていた。





「……つまり、彼女の言う“未来”とは、現代的な文明を持つ世界ということだな。」



「そうだ。だが、僕らの時代の常識では到底理解できない。」



「理解する必要はない。事実を積み重ねれば、真実は自ずと見えてくる。」




 ホームズの低い声。

 やっぱり、この人は論理の塊だ。






 私が紅茶を差し出すと、ホームズは一瞬だけ私を見た。


 その視線はほんの少し柔らかくて。


 心臓がまた少し跳ねた。