「私は科学者でもあり、探偵だ。
だが――奇跡を完全に否定するほど、愚かでもない。」





 その言葉に、胸の奥が熱くなった。


 あの冷たい瞳の奥に、あたたかい何かが確かにあった。





 私は彼の横顔を見つめた。

 整った輪郭。長いまつげ。

 思っていたよりもずっと綺麗な顔をしていた。




――あれ…?どうしよう。
 心臓が、少し速くなってる。






 彼が振り向く。





「どうした?」

「な、なんでもないです!」




 慌てて目を逸らした。

 窓の外には、朝の霧がまだ街を包んでいた。



 ロンドンの朝は静かで、どこか優しい。




そして私は気付いていた。




 ――この世界で生きるということは、たぶん、“推理”よりもずっと難しい。




 でも。
 少しだけ、楽しそうだと思ってしまった。